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東京高等裁判所 昭和59年(う)1993号 判決

主文

本件各控訴を棄却する。

各被告人に対し、当審における未決勾留日数中各九〇日を原判決の各本刑にそれぞれ算入する。

理由

本件各控訴の趣意ば、被告人新居久三雄につき弁護人野々山哲郎作成の控訴趣意書、被告人武田豊及び同武田進につき弁護人真木幸夫作成の控訴趣意書にそれぞれ記載されたとおりであるから、これらをここに引用する。

控訴趣意に対する当裁判所の判断は、次のとおりである。

第一原判示第一の事実に関する事実誤認の主張について(被告人新居久三雄の弁護人野々山哲郎の控訴趣意、被告人武田豊及び同武田進の弁護人真木幸夫の控訴趣意第一)

各論旨は、原判示第一の強盗致死について被告人らを有罪とした原判決には、それぞれの主張にかかる後記一ないし五の事実の誤認があり、いずれも判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。

一強盗の共謀の成立について(被告人新居久三雄、同武田豊、同武田進関係の右各控訴趣意)

各所論は、要するに、被告人らには強取の犯意はなく、被告人らがその共謀をした事実はなく、従つて、被告人らが強盗致死の責任を問われる理由がなく、特に被告人武田豊は犯行現場不在中の強取及び致死について責任を問われる理由がないのに、被告人らが強取の犯罪を有しその共謀をしたとの事実を認定した原判決には事実の誤認がある、というのである。

そこで、記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果を加えて検討すると、原判決が「弁護人らの主張に対する判断」の項において説示するところはすべて正当として是認できる。すなわち、関係証拠によれば、本件犯行の行われた昭和五八年七月当時住吉連合会系の鈴木組(組長鈴木健之亮)内赤坂組には組長として赤坂毅、組長代行として被告人武田豊、組員として被告人新居久三雄、同武田進及び同鶴飼喜一がおり、各被告人は赤坂毅のもとで債権取立等をしていたこと、被告人ら四名はかねてから赤坂毅の人柄、やり方に不満を持つていたのであるが、昭和五八年七月七日未明同人が被告人新居久三雄に対し侮辱的な言動に及んだことを契機として赤坂組から脱退することを決意したこと、被告人武田豊は脱退にあたつて赤坂毅に対し債権取立で得た利益金を被告人ら四名に分配し、同人の所持するけん銃を交付するように要求し、もし同人がこれに応じない場合には同人を痛めつけて右金品を奪い取ろうと考え、この考えを同被告人から聞いた被告人新居久三雄、同武田進、同鶴飼喜一もこれに賛同したこと、その後被告人らは赤坂組事務所及び赤坂毅方自宅において赤坂毅に対し執ように金員及びけん銃の交付を要求し、その任意の交付を期待できないと判断するや、被告人新居久三雄、同武田豊が赤坂毅方の家探しをし、赤坂毅方において被告人新居久三雄が同武田豊、同武田進の見ている前で「俺が吐かせてやる。」といい、赤坂毅に対し、登山ナイフを畳に突き刺し、「金とチヤカ(けん銃)はどこにある。」などと怒声を上げ、右ナイフでその臀部を一回突き刺したこと、被告人武田豊は、赤坂毅がけん銃は鈴木組長の所にあると言つたのでその真偽を確かめる等するため、被告人新居久三雄、同武田進に「これ以上手を出すな。」と言い残して鈴木組事務所に向つたこと、その後被告人新居久三雄は登山ナイフで赤坂毅の身体を一〇回前後突き刺したこと、被告人新居久三雄、同武田進、同鶴飼喜一は赤坂毅が逃げ出した際連れ戻して殴り蹴り、あるいはその手足にガムテープを巻きつけて身動きできなくしたこと、その間に被告人新居久三雄、同武田進が赤坂毅から現金約三万七〇〇〇円在中の財布一個、三和銀行発行の総合口座通帳一冊等を差し出させて奪い取つたこと、右赤坂毅方における一連の暴行により同人を同日午後八時ころ死亡するに至らせたこと、同月八日から同月一五日までの間に同人方の家探しを繰り返し、改造けん銃一丁、足利銀行発行の総合口座通帳一冊、郵便貯金通帳一冊、印鑑等を持ち出したこと、各通帳のほぼ全額を払い戻して赤坂毅の死体を遺棄する費用等を差し引いた残額を被告人ら四名で分配したことが認められる。右の経過に照らすと、被告人ら四名は赤坂組事務所に到着する以前に赤坂毅が任意けん銃及び金員を交付しない場合には同人に暴行を加え、その反抗を抑圧してこれを強取する旨の共謀をしたとの原判決の認定は肯認することができる。

また、関係証拠によれば、被告人武田豊が被告人新居久三雄らに「これ以上手を出すな。」と言い残して鈴木組事務所に向つたのは、右共謀にかかる赤坂毅からの金品の強取を自分がやめるとともに被告人新居久三雄ら共犯者にやめさせようという考えからではなく、単に刃物の使用をやめさせようとしたものであつて、依然として赤坂毅に対し殴る、蹴る、脅かす等をして右金品を奪取する意図を有していたのであり、また、鈴木組事務所に向つたのは、赤坂毅がいうようにけん銃が鈴木組長に預けてあるか否かを確かめ、かつ、鈴木組長に間に入つてもらつて、あくまでけん銃及び金員を赤坂毅から得るためであつたことが認められる。右の経過及びその後の死体遺棄、赤坂毅方の家探し、各通帳の預貯金の払い戻しに被告人武田豊が積極的に関与し、他の被告人らを指揮していることに照らすと、被告人武田豊が右のとおり赤坂毅方の現場を離れた後に他の被告人らのした実行行為についても共同正犯者として責任を負うことが明らかである。

結局、各論旨は理由がない。

二各金品の実質上の所有について(被告人新居久三雄関係の控訴趣意)

所論は、要するに、本件各金品は赤坂毅個人のものではなく赤坂組という組織のものであり、従つてこれを赤坂組に属する被告人らが入手するのは強取ではないのに、被告人らが赤坂毅の所有ないし名義の各金員を強取したとの事実を認定した原判決には事実の誤認がある、というのである。

そこで、記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果を加えて検討すると、関係証拠によれば、本件各金品は赤坂毅が自己個人の所有に属するものとして支配下においていたことが認められるから、前記一において示したような暴行を赤坂毅に加えてこれを奪取したことを強取であるとした原判決の認定に事実の誤認があるとは認められない。論旨は理由がない。

三現金三万七〇〇〇円在中の財布一個の交付について(被告人新居久三雄関係の控訴趣意)

所論は、要するに、現金三万七〇〇〇円在中の財布一個は被告人武田進、同鶴飼喜一が負傷した赤坂毅をその希望によつて病院に連れて行つた際病院の支払い等に充てるために同人から預かつたものであるから、被告人らがこれを強取したものでないのに、被告人らがこれを強取したとの事実を認定した原判決には事実の誤認がある、というのである。

そこで、記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果を加えて検討すると、関係証拠によれば、前記一のとおり、被告人新居久三雄、同武田進において赤坂毅から現金三万七〇〇〇円在中の財布一個等を差し出させて奪い取つたことが認められ、所論にかんがみ、証拠を精査しても、被告人武田進、同鶴飼喜一が赤坂毅からその任意の交付を受けたことをうかがわせるに足りる証拠はない。従つて、右金員在中の財布一個を被告人らが共謀のうえ強取したとの事実を認定した原判決に事実の誤認があるとは認められない。論旨は理由がない。

四赤坂毅方の家探しについて(被告人武田豊、同武田進関係の控訴趣意)

所論は、要するに、被告人鶴飼喜一が赤坂毅名義の足利銀行発行の総合口座通帳等を同人方から持ち帰つたのは、犯行による血痕を掃除する目的で行つたところ偶々状差にあつたのを発見した結果であつて、家探しのために行つた事実はないから、右持ち帰りは強盗致死罪における強取ではないのに、被告人らが家探しを繰り返して右預金通帳等を持ち出して強取したとの事実を認定した原判決には事実の誤認がある、というのである。

そこで、記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果を加えて検討すると、関係証拠によれば、被告人武田豊、同鶴飼喜一あるいは同武田進が昭和五八年七月八日から同月一五日ころまでの間に赤坂毅の自宅に数回赴いたのは、血痕等犯行の形跡をなくすためのみではなく、けん銃、預金通帳、印鑑等を探し出してこれを領得するためでもあつたことが明らかであるから、家探しを繰り返して回転弾倉式改造けん銃一丁、株式会社足利銀行発行の総合口座通帳一冊等を持ち出した旨の事実を認定した原判決には事実の誤認があるとは認められない。論旨は理由がない。なお、これらの持ち出しが強取にあたるというべきか否かについては、後記第二で検討することにする。

五被告人新居久三雄による赤坂毅の胸部刺突行為について(被告人新居久三雄関係の控訴趣意)

所論は、要するに、被告人新居久三雄が赤坂毅の胸部を突き刺したことはないのに、被告人新居久三雄が所携の登山ナイフで赤坂の胸部等を数回突き刺したとの事実を認定した原判決には事実の誤認がある、というのである。

そこで、記録及び証拠物を調査して検討すると、関係証拠によれば、被告人新居久三雄がその他の部位を数回突き刺したほか胸部を少なくとも一回突き刺したことが明らかであるから、被告人新居久三雄が胸部等を数回突き刺した旨認定した原判決に事実の誤認があるとは認められない。論旨は理由がない。

第二原判示第一の事実に関する法令適用の誤りの主張について(被告人武田豊及び同武田進の弁護人真木幸夫の控訴趣意第二及び被告人鶴飼喜一の弁護人目黒太郎の控訴趣意第一)

各所論は、要するに、原判示強取物件中株式会社足利銀行発行の総合口座通帳一冊、郵便貯金通帳一冊、印鑑(印鑑については弁護人真木幸夫の控訴趣意は主張していない。)を被告人鶴飼喜一らが都内の赤坂毅方で発見して持ち帰つたのは赤坂毅の死後三日あるいは八日を経過し、その死体は遠く鳥取県下の山中に遺棄されており、しかも、被告人鶴飼喜一らが赤坂毅方へ赴いたのは家探しの目的ではなく、同所を掃除しに行つたところこれを偶然発見して持ち帰つたものであるから、右持ち帰りは強盗致死罪にいう強取に当たらないのに、これを強取したものとして、刑法六〇条、二四〇条後段を適用した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある、というのである。

そこで、記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果を加えて検討すると、被告人鶴飼喜一らが株式会社足利銀行発行の総合口座通帳一冊、郵便貯金通帳一冊、印鑑等を都内中野区の赤坂毅方自宅から持ち出したのは、昭和五八年七月一〇日ころから同月一五日ころまでの間のことであつて、既に赤坂毅は同所において同月七日午後八時ころ死亡し、その死体は同日午後一〇時過ぎに同所から選び出されて普通乗用自動車に積み込まれ、同月九日午後四時ころ鳥取県下所在の山林内に投棄されていたことは所論指摘のとおりである。しかしながら、前記第一で示したとおり、被告人ら四名は赤坂毅から金品等を強取することを共謀しており、右のように持ち出した財物は右共謀の範囲内のものであり、また、関係証拠によれば、赤坂毅は単身で右自宅に居住していたものであつて、同人の死亡と同時にそれまで同人の配下であり、かつ、同人の死亡を惹起し、また、既に右自宅の鍵を手に入れていた被告人らが同人の自宅を事実上支配するに至るとともに、同人が同所に置いていた財物は被告人らがそれを発見しさえすればこれを現実的に支配することができる状況であつたこと、被告人鶴飼喜一らは右共謀に基づいて金品を発見して入手するために事実上支配している赤坂毅の自宅の家探しを繰り返し、同人の死亡後九日目までの間に本件預金通帳等を発見して持ち出したものであることが認められる。このように、財物の取得が、強取の共謀に基づき、かつ、強盗の際の被害者の死亡によつて生じた強盗犯人が事実上支配しうる状況の現実化としてなされたものであり、その時点も必ずしも甚だしく隔つてはいないときは、被害者の死亡と時間的に接着しているとはいえず、かつ、その死体が既に遠隔の地に遺棄されている場合であつても、全体的に観察し、右財物の取得は強盗致死罪の一部をなすものである、というべきである。従つて、所論指摘の財物の持ち出しを強盗致死罪の強取にあたるとした原判決に法令適用の誤りがあるとは認められない。結局、論旨は理由がない。

第三原判示第三の二、三、四の各事実に関する事実誤認の主張について(被告人新居久三雄の弁護人野々山哲郎の控訴趣意)

所論は、要するに、被告人らが払い戻した赤坂毅名義の預貯金通帳は赤坂毅個人のものではなく赤坂組のものであるから同組に属する被告人らが右預貯金を払い戻したのは騙取したものではないのに、被告人らがこれを騙取したものと認定した原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある、というのである。

そこで、記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果を加えて検討すると、前記第一、二において示したとおり、所論指摘の預貯金通帳は赤坂毅が自己個人の所有に属するものとして支配していたものであることが認められるのであるから、被告人らには正当な払い戻し権限はないというべきであり、従つて自己が正当な払い戻し権限を有するかのように装つて銀行行員をしてその旨誤信させて預金払い戻し名下に現金の交付を受けたものであると認定した原判決に所論指摘の事実の誤認があるとは認められない。論旨は理由がない。

第四量刑不当の主張について(被告人武田豊及び同武田進の弁護人真木幸夫の控訴趣意第三及び被告人鶴飼喜一の弁護人目黒太郎の控訴趣意第二)

各所論は、要するに、原判決の被告人武田豊、同武田進、同鶴飼喜一に対する各量刑は重過ぎて不当である、というのである。

そこで、記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果を加えて検討すると、原判決が「量刑の理由」として説示するところはいずれも肯認できるのであつて、本件は、被告人ら四名の強盗致死、死体遺棄、被告人ら四名あるいはその一部の者の有印私文書偽造、同行使、詐欺、被告人武田豊、同武田進の恐喝、被告人武田豊の銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反の事案であるところ、そのいきさつ、態様は、暴力団赤坂組組長代行あるいは組員であつた被告人ら四名が同組組長赤坂毅に対する不満から同組を脱退するに際し、赤坂毅に金員やけん銃の交付を執拗に要求し、その所在の白状を迫り、抵抗できなくなつた同人に暴言を浴びせ、登山ナイフで臀部等を突き刺す等の暴行を加え、その反抗を抑圧して預金額約一六〇万円の総合口座通帳一冊等を差し出させて強取し、更にけん銃、金員を強取するため登山ナイフで数回突き刺したり、玄関先まで逃げ出し助けを求めて悲鳴をあげる同人を連れ戻して殴つたり蹴つたりし、またその手足にガムテープを巻き付けて身動きできなくしたりし、よつて同人を死亡するに至らせ、その後同人方の家探しをしてけん銃一丁、預金額約三万円の総合口座通帳一冊、貯金額約五万円の郵便貯金通帳一冊及び預貯金の払い戻しに必要な印鑑等を持ち出してこれらを強取し、同人の遺体を遠方の人里離れた山林内に投棄し、被告人ら四名あるいはその一部の者が数回にわたり、右のように奪った預貯金通帳を利用し、その払戻請求書等を偽造行使して銀行等から現金合計約一四九万円を騙取し、約二一万円の振替入金を受け、もつて被害者ないしその遺族に多大の損害を負わせたものであり、その犯情は悪質であること、被害者にも非難される事情があつたとはいえ残忍な方法で一命を奪われ、山林中に投棄された被害者の無念さと遺族の受けた悲しみや苦痛に対する慰謝の方法が講じられていないこと等にかんがみると、被告人ら四名はいずれも厳しい非難に値するものといわなくてはならない。

次に、各別の犯情をみると、被告人武田豊は本件強盗を発案し、それについて上部組織の組長に事前に了解を求め、実行及び事後の処理において他の被告人らに指示を与える等主導的役割を果していること、他に被告人武田進等と共謀して暴力団に対する協力費名下に飲食店経営者から現金を喝取し、回転弾倉式改造けん銃二丁、実包三一発、あいくち四振を不法に所持したものであること、被告人武田進は強盗致死の犯行において赤坂毅に対し殴る、蹴る等の暴行を加えていること、他に被告人武田豊らと共に右恐喝を犯していること、被告人鶴飼喜一は強盗致死の犯行において赤坂毅方の家探しを繰り返し、同人の見張りをし、逃げ出した同人を連れ戻し手足にガムテープを巻きつけるのに手を貸していること、各被告人にそれぞれ原判示のとおり前科があること等に照らし、各被告人の刑事責任はいずれも重大であるというべきである。

そうしてみると、本件強盗致死の犯行については、赤坂毅の人柄、被告人らを処遇する態度等に問題があり、同人が被告人新居久三雄に対し先制的に攻撃を加える等赤坂毅にも落度があつたこと、右強盗致死の犯行においても最も積極的に行動し、登山ナイフでその身体を多数回突き刺すなどの危険な暴行を加えたのは赤坂毅に対する私憤を抱いていた被告人新居久三雄であること、被告人武田豊は直接暴行を加えたことはないこと、被告人鶴飼喜一らは、被告人武田豊の指示に従つて行動したものであること、被告人鶴飼喜一は、当初灰皿で赤坂毅の後頭部を殴打した際に両手に傷害を負つたためその後さしたる暴行行為に出ていないこと、各被告人が反省していること等各所論指摘の肯認することのできる諸事情を十分考慮に入れても、酌量減軽のうえ、被告人新居久三雄に懲役一三年の刑を科すとともに、被告人武田豊を懲役一二年に、同武田進、同鶴飼喜一を各懲役一〇年に処した原判決の各量刑が重過ぎて不当であるとは認められない。各論旨はいずれも理由がない。

よつて、刑訴法三九六条により本件各控訴を棄却し、各被告人に対し、刑法二一条を適用して当審における未決勾留日数中各九〇日を原判決の各本刑にそれぞれ算入し、被告人新居久三雄、同鶴飼喜一の関係で生じた当審における訴訟費用は刑訴法一八一条一項但書を適用して同被告人らに負担させないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官内藤丈夫 裁判官前田一昭 裁判官本吉邦夫)

〔参考 第一審判決〕

〔主   文〕

被告人新居久三雄を懲役一三年に、同武田豊を懲役一二年に、同武田進、同鶴飼喜一を各懲役一〇年にそれぞれ処する。

被告人ら四名に対し、未決勾留日数中各二七〇日をそれぞれその刑に算入する。

被告人ら四名から、押収してある普通預金当座貸越請求書一通(昭和五九年押第二二六号の3)及び払戻請求書一通(同号の4)の各偽造部分を、被告人新居久三雄、同武田豊から、押収してある払戻請求書一通(同号の5)の偽造部分を、被告人武田豊、同鶴飼喜一から、押収してある郵便貯金払戻金受領証二通(同号の1、2)の各偽造部分を、被告人武田豊から、押収してある払戻請求書(解約)一通(同号の6)の偽造部分及び回転弾倉式改造けん銃二丁(同号の10、11)、実包三一発(うち五発は試射済。同号の12、13)をそれぞれ没収する。

被告人新居久三雄は昭和五八年一二月一〇日付公訴事実中の第二事実の別表(二)の1、5及び6の各事実について、同武田進は同表の1及び4ないし6の各事実について、同鶴飼喜一は同表の4及び6の各事実についてそれぞれ無罪。

〔理   由〕

(罪となるべき事実)

被告人武田豊(以下、被告人豊という。)は、東京都中野区鷺宮三丁目二三番五号武蔵野マンション五〇五号に事務所を置く住吉連合会幸平一家池田会鈴木組内赤坂組組長代行、同新居久三雄(以下、被告人新居という。)、同武田進(以下、被告人進という。)及び同鶴飼喜一(以下被告人鶴飼という。)は、右赤坂組組員として、いずれも同組組長赤坂毅のもとで債権取立等を行つてきたものであるが、

第一 被告人ら四名は、かねてより前記赤坂組組長赤坂毅が債権取立で得た利益を自己らに殆ど分配しないで一人占めにし或いは人前で自己らを無能呼ばわりするなどの侮辱的態度をとるとして同人に対し不満の念を抱いていたところ、昭和五八年七月七日未明、同人が、東京都台東区内のスナックやその付近の路上において、前記鈴木組組長鈴木健之亮を前に酔態を演じ、これを制止する被告人新居に対し、つばを吐きかけ、「この乞食野郎。何で俺に加勢しないのか。」などと罵倒したり足蹴にし、更に、帰りのタクシー内においても、「俺がやられているのに何でやらなかつた。」と文句を言つて殴りかかるなどした事態が生じ、これを契機として、被告人ら全員が赤坂組から脱退することを決意すると共に、その脱退交渉に当たり、右赤坂に対し、これまでの債権取立の分配金とその所持するけん銃の交付を求め、同人が任意にこれに応じない場合には同人から右金品を強取する旨の共謀を遂げ、同日午後一時前ころ、ともども、前記赤坂組事務所へ赴き、同所において、就寝中の同人を起こして脱退等の交渉を始めようとした際、起きてきた同人が、被告人新居を認めるやいきなり「きのうのざまは何だ。」と怒号してその顔面を殴打したため、とつさに同被告人及び被告人進が、それぞれ手拳で赤坂(当時四九歳)の顔面を殴打し、被告人鶴飼が、テーブル上の陶器の灰皿を取り上げてその後頭部を殴打して後頭部挫創の傷害を与え、その後、被告人豊が、赤坂に対し「自分らはこれ以上兄貴について行けないので足を抜く。今まで自分らの働いた分の金を分配してくれ。兄貴の持つているハジキ(けん銃)を預からせてくれ。」などと申し向けて交渉に入り、その間、後頭部挫創の痛みを訴える同人を近くの病院へ連れて行つてその治療を受けさせたことによる暫時の中断はあつたものの、その前後を通じて、同人に対し、こもごも怒声を上げるなどして金員及びけん銃の交付方の要求を続けたが、一向に同人がこれに応ずる態度を示さなかつたところから、各被告人とも、ついには、赤坂からの任意の交付を期待し得ないと考えるに至り、そこで、同日午後三時前ころ、被告人新居、同豊は、同都中野区沼袋二丁目一三番六号の赤坂の自宅へ金員やけん銃を探しに出掛け、一方、赤坂組事務所に残つて赤坂を見張つていた被告人進、同鶴飼は、赤坂の求めに応じて再度近くの病院へ赴いた後、その要望を容れて右の赤坂方へ連れて行き、同日午後四時ころから、同所において、被告人豊が、赤坂に対し金員、けん銃の保管場所を厳しく追及し、それと共に、被告人新居が、所携の登山ナイフで赤坂の臀部や大腿部を数回突き刺すなどの暴行を加え、その反抗を抑圧した上、同人をして上着のポケットから同人所有の現金約三万七〇〇〇円在中の財布一個、同人名義の株式会社三和銀行発行の総合口座通帳一冊、ライター一個等を差し出させてこれらを強取し、更に、その後も、けん銃等を強取すべく、被告人新居が前記登山ナイフで赤坂の胸部等を数回突き刺したり、玄関先まで逃げ出した同人を被告人新居、同進、同鶴飼が無理遣り室内に連れ戻してその身体を殴り蹴り或いはその手足にガムテープを巻きつけて身動きできなくしたりする暴行を加え、同日午後八時ころ、赤坂を右赤坂方における一連の暴行により負わせた刺創等の傷害に基づき死亡するに至らせた上、翌同月八日から同月一五日までの間に同人方の家探しを繰り返し、その所有の回転弾倉式改造けん銃一丁、同人名義の株式会社足利銀行発行の総合口座通帳一冊、同人名義の郵便貯金通帳一冊、印鑑等を持ち出してこれらを強取し、

第二 被告人ら四名は、前記鈴木組組長鈴木健之亮と共謀の上、前記赤坂毅の死体を人目につかない場所に遺棄しようと企て、昭和五八年七月七日午後一〇時過ぎ、右死体を前記赤坂方から運び出して普通乗用自動車(登録番号練馬五八ひ八六五八号)の後部トランク内に積み込んだ上、被告人新居、同進の運転により鳥取県八頭郡智頭町大字奥本字石休八五六番地付近まで運搬し、同月九日午後四時ころ、同所山林内にこれを投棄し、もつて死体を遺棄し、

第三 〈省略〉

第四 〈省略〉

第五 〈省略〉

第六 〈省略〉

(証拠の標目)〈省略〉

(法令の適用)

被告人ら四名の判示第一の所為は刑法六〇条、二四〇条後段に、判示第二の所為は同法六〇条、一九〇条に、被告人豊、同鶴飼の判示第三の一、五の各所為、被告人ら四名の同二、三の各所為及び被告人新居、同豊の同四の所為中、有印私文書偽造の点は各同法六〇条、一五九条一項に、同行使の点は各同法六〇条、一六一条一項、一五九条一項に、詐欺の点は各同法六〇条、二四六条一項に、被告人豊の判示第三の六の所為中、有印私文書偽造の点は同法一五九条一項に、同行使の点は同法一六一条一項、一五九条一項に、詐欺の点は同法二四六条二項に、被告人豊、同進の判示第四の所為は同法六〇条、二四九条一項に、被告人新居の判示第五の所為は覚せい剤取締法四一条の二第一項二号、一七条三項に、被告人豊の判示第六の所為中、回転弾倉式改造けん銃二丁の不法所持の点は包括して銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二第一号、三条一項に、あいくち四振の不法所持の点は包括して同法三一条の四第一号、三条一項に、実包三一発の不法所持の点は包括して火薬類取締法五九条二号、二一条にそれぞれ該当するところ、判示第三の一ないし六の各有印私文書偽造とその行使と詐欺との間には順次手段結果の関係があるので、刑法五四条一項後段、一〇条によりいずれも一罪として最も重い各詐欺罪の刑(ただし、短期はいずれも各偽造有印私文書行使罪の刑のそれによる。)で処断することとし、判示第六は一個の行為で三個の罪名に触れる場合であるから、同法五四条一項前段、一〇条により一罪として最も重いけん銃の不法所持の罪の刑で処断することとし、所定刑中、被告人ら四名の判示第一の罪については各無期懲役刑を、被告人豊の判示第六の罪については懲役刑をそれぞれ選択し、被告人新居の判示第二、第三の二ないし四及び第五の各罪は前記の前科との関係で四犯であるから、いずれも同法五九条、五六条一項、五七条により累犯の加重をし、被告人新居の判示第一、第二、第三の二ないし四及び第五の各罪、同豊の判示第一ないし第四及び第六の各罪、同進の判示第一、第二、第三の二、三及び第四の各罪、同鶴飼の判示第一、第二及び第三の一ないし三、五の各罪は、それぞれ同法四五条前段の併合罪であるが、いずれも判示第一の罪について無期懲役刑を選択したので、同法四六条二項本文により他の刑を科さないこととし、なお犯情を考慮し、同法六六条、七一条、六八条二号を適用していずれも酌量減軽をし、その各刑期の範囲内で被告人新居を懲役一三年に、同豊を懲役一二年に、同進、同鶴飼を各懲役一〇年にそれぞれ処し、同法二一条を適用して被告人ら四名に対し未決勾留日数中各二七〇日をそれぞれその刑に算入し、押収してある普通預金当座貸越請求書一通(昭和五九年押第二二六号の3)の偽造部分は被告人ら四名の判示第三の二の偽造有印私文書行使の犯罪行為を組成した物、同払戻請求書一通(同号の4)の偽造部分は被告人ら四名の判示第三の三の偽造有印私文書行使の犯罪行為を組成した物、同払戻請求書一通(同号の5)の偽造部分は被告人新居、同豊の判示第三の四の偽造有印私文書行使の犯罪行為を組成した物、同郵便貯金払戻金受領証二通(同号の1、2)の各偽造部分は被告人豊、同鶴飼の判示第三の一、五の各偽造有印私文書行使の犯罪行為を組成した物、同払戻請求書(解約)一通(同号の6)の偽造部分は被告人豊の判示第三の六の偽造有印私文書行使の犯罪行為を組成した物で、いずれもなんぴとの所有をも許さないものであるから、同法一九条一項一号、二項を適用してそれぞれ関係被告人からこれを没収し、同回転弾倉式改造けん銃二丁(同号の10、11)、実包三一発(うち五発は試射済。同号の12、13)は被告人豊の判示第六の銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反の各犯罪行為を組成した物で、いずれも同被告人以外の者に属しないから、同法一九条一項一号、二項を適用して同被告人からこれを没収し、被告人新居、同鶴飼に要した各訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項但書を適用して同被告人らに負担させないこととする。

(弁護人らの主張に対する判断)

被告人らの各弁護人は、判示第一の事実について、被告人ら四名は赤坂毅と話し合つて自己らの赤坂組からの脱退を認めさせると共に債権取立の分配金とけん銃の交付を求めようと考えていたにすぎず、最初に赤坂組事務所において被告人新居、同進、同鶴飼が手拳又は灰皿で赤坂の頭部などを殴打したのは同人がいきなり被告人新居を殴打したことに憤激したためであり、また、赤坂の自宅において被告人新居が登山ナイフで赤坂を突き刺すなどしたのも同人に対する私憤によるものであつて、被告人らには金品強取の故意も共謀もなく、したがつて、強盗致死罪は成立しない旨主張するので、以下この点について検討を加えると、関係証拠を総合すれば、かねてより赤坂に対して不満を抱いていた被告人ら四名は、昭和五八年七月七日未明、赤坂が被告人新居に対して侮辱的振舞に及んだ出来事を契機として赤坂組から脱退することを決意したが、被告人豊は、その脱退交渉をするに当たり、赤坂に対し、債権取立で得た利益金を自己らに分配するように、また、同人からの報復を封ずるためその所持するけん銃を差し出すように要求し、もし同人が任意にこれに応じない場合には同人を痛めつけてでも右金品を奪い取ろうと考え、赤坂組の上部組織である鈴木組の組長鈴木健之亮に事前に話を通しておくため東京都品川区内の右鈴木方へ向かう折、同行した被告人新居、同進に右の考えを伝えたこと、その途中で被告人鶴飼と落ち合い、そろつて鈴木方に至り、被告人豊が鈴木に対し「兄貴(赤坂)の許ではやつて行けないので、赤坂組から抜けたい。抜けるに当たつては切り取り(債権取立)の金を分配してもらい、ハジキ(けん銃)を預りたい。ちよつと位痛めつけるかもしれない。」などと述べ、その場には被告人新居、同進、同鶴飼も同席して右の話を聞いていたこと、なお、赤坂組事務所へ赴く途中においても、被告人豊がその考えを同鶴飼に伝え、被告人新居、同進、同鶴飼は、いずれも、同事務所に到着するまでの間においてこれに賛同したこと、同事務所においては、まず赤坂が被告人新居を殴打し、これに対し同被告人、被告人進、同鶴飼が手拳又は灰皿で赤坂の頭部などを殴打し、それに続いて赤坂との交渉に入つたが、被告人らがこもごも怒声を上げるなどして金員及びけん銃の交付方の要求を繰り返したのにもかかわらず、一向に同人がこれに応ずる態度を示さなかつたところから、各被告人とも、ついには赤坂からの任意の交付を期待し得ないと判断するに至つたこと、次に、場所を赤坂の自宅に移して、被告人新居、同豊による家探しと被告人豊による赤坂に対する金員、けん銃の保管場所についての厳しい追及が行われたが、同人が頑としてその所在を明かさなかつたため、被告人新居が「俺が吐かせてやる。」と言い、被告人豊、同進、の見ている前で室内にあつた登山ナイフを手にして畳に突き刺し、「乞食野郎の根性を見せてやる。金とチヤカ(けん銃)はどこにある。」などと赤坂に対して怒声を上げ、その臀部を一回突き刺したこと、被告人豊は、赤坂がけん銃は鈴木組長の所にある旨の言い逃れをしたことからその真偽を確かめようなどと考え、被告人新居、同進に「これ以上手を出すな。」と言い残して鈴木組事務所へ向かつたこと、その後の被告人新居、同進、同鶴飼の行動についていえば、被告人新居は、登山ナイフで赤坂の大腿部を数回突き刺すなどしてその反抗を抑圧し、同人をして財布や預金通帳等を差し出させた上、なおも胸部等を数回にわたり突き刺し、被告人進は、酒を買うため外出していたわずかの時間を除いてその場にとどまり、被告人新居と共に赤坂に対し金員、けん銃の所在を追及し、被告人鶴飼は、同新居が最初に赤坂の臀部を突き刺した時点では内妻との電話連絡のため外出していたものと思われるが、赤坂方に戻つてからは、家探しや赤坂の見張りをし、更に、被告人新居、同進、同鶴飼は、赤坂が玄関先まで逃げ出した際、無理遣り室内に連れ戻して殴り蹴り或いはその手足にガムテープを巻きつけて身動きできなくしたこと、この赤坂方における一連の暴行により同人に刺創等の傷害を負わせ、直接の死因は定かでないが右の刺創等に基づき同人を死亡させたこと(前記の灰皿で同人の頭部を殴打したことから生じた後頭部挫創の傷害は死因をなすものでない。)、その後も数日にわたつて赤坂方の家探しを繰り返し、その結果、改造けん銃や預貯金通帳等を探し出し、そのほぼ全額を払い戻して被告人ら四名で分配するなどしたこと等の諸事実が認められる。

右のうち、赤坂組事務所において手拳又は灰皿で赤坂を殴打した点は不意の出来事であり、また、被告人新居が赤坂の自宅にあつた登山ナイフで最初にその臀部を一突きした点は他の被告人らにとつては予想外の事態の感があるので、いずれも一応これを措くとしても、その余の、被告人らが赤坂に対し執ように金員及びけん銃の交付方を要求し、その任意の交付を期待し得ないと判断するや、同人方の家探しをし、更に、逃げ出した同人を連れ戻して殴り蹴り或いはその手足にガムテープを巻きつけて動きを封ずるなどの強行手段を採つている事実に照らすと、被告人ら四名が、前示のとおり、被告人豊を中心として事前に相談し意思の合致をみた内容は、初めは赤坂との話し合いにより債権取立の分配金及びけん銃の交付方を求めるが、もし同人が任意にこれに応じない場合には右金品を強取しようというものであつて、被告人ら四名は、赤坂組事務所に到着するまでの間に、強盗の共謀を遂げていたと認定するのが相当である(被告人豊が被告人新居において赤坂の臀部を一突きしたあと「これ以上手を出すな。」と言つた事実は、この認定を左右しない。)。

次に、赤坂組事務所において、被告人新居、同進、同鶴飼が手拳又は灰皿で赤坂を殴打した行為は、同人が被告人新居を殴打したことに憤激したためであつて、確かに、これを金品強取の手段たる暴行と見ることには疑問がある。しかしながら、被告人新居が登山ナイフで多数回にわたり赤坂を突き刺した行為は、その際に「俺が吐かせてやる。」「乞食野郎の根性を見せてやる。金とチヤカはどこにある。」などと発言していることや、それが家探しから財布、預金通帳等の奪取に至るまでの一連の経過の中で行われたものであることにかんがみ、私憤を晴らすという一面のあることは否定し得ないとしても、なお金品強取の手段と認めるに十分である。また、逃げ出した赤坂を連れ戻して殴り蹴り或いはその手足にガムテープを巻きつけた行為は、強盗の実行に着手した後の強盗の機会における暴行として、同じく強盗行為と認められる。

なお、弁護人らは、被害品の一部は赤坂死亡後数日を置いて偶然に発見されたもので強取されたわけでない等の理由を挙げて、それらについては被告人らに責任がない旨主張するが、前叙のとおり、被告人らは、赤坂の死後、同人方を繰り返し家探しするなどした結果これらの被害品を発見したのであり、それまでに強盗の故意及び共謀が先行するところよりすれば、これらについても強盗の責任を負うというべきである。

以上によれば、被告人ら全員について強盗致死罪の成立を肯認することができる。弁護人らの主張は理由がない。〈以下、省略〉

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